ナナの顔形をしたままで、少女は有輝子がするように凛と、
「私ね、すばるに私と一緒にいてほしかったから、全部がまんしてた。すばるに嫌われたくなかったから。すばるの他に友達なんていないから」
でも、どこかで何かを堪える笑みを浮かべた。
「ねえ、もう一緒にいられないの……?」
ナナの姿をした有輝子の問いに、すばるは首を横に振った。
やわらかく長い髪も、宇宙では少しも風になびかない。
「ユキコちゃんがここにいると、地球からは消えちゃう。わたしが地球にいけば、ユキコちゃんはどんどんおかしくなっていっちゃう。わたし、見てきたから知ってる。スターゲイザーとスターゲイザードは見つめる者同士。隣り合わないの」
「イヤよ……」
「戻ろう。全部、忘れて。二度ともうここには戻ってこないように」
「ヤダっ!」
ナナの姿をした有輝子はスカートを握りしめ、大きく左右に頭を振った。
想いを吐きだしたその姿も、ただわめいていただけのナナとは全く違っていた。
「私、私……そうだわ、私もう知っているのよ。そっちのあなた……コトリスだって、すばるのスターゲイザードなんでしょうっ? 私がすばるを忘れてしまったら、すばるが……消えてしまったら! あなただって消えるのよっ?」
「仕方ないよね」
コトリスは迷いなく、ひとすじ風が吹いたように応えた。
有輝子はもう何も聞きたくもないのか、ますます頭を左右に振った。噛みしめた歯を見せる唇の横に、あとからあとから涙がこぼれてくる。
「二度と会えないなんてイヤ!」
「大丈夫。忘れるから寂しくない」
「いやっ、忘れたくない!」
「じゃあもっと、大丈夫」
すばるはゆっくり一歩ずつ、有輝子に近づいて行った。
二人が初めて会った時は、立ちつくすすばるに有輝子から近づいて行った。
そんな日がもう遠い昔に思える。
「見えなくても、忘れてしまっても、消えるわけじゃない。わたしもコトリスも、ずぅっと前からここにいた。ユキコちゃんが生まれるずっと前から。何億年も前から」
有輝子はずっと下を向き、首をふるばかり。すばるはその前にひざをつき、有輝子の泣きはらした顔の下に両手を差し出す。
「また見つけて」
ほほえんだすばるのほほにも涙が一粒流れた。
「ユキコちゃんなら見つけられる。そうしたらまた見つめ合える。どんなに遠くても大丈夫。わたしたち、スターゲイザーとスターゲイザードなのよ」
ふっと顔を上げたナナはもう、有輝子の姿そのものに変わっていた。肩くらいの髪と、冴えたまなざし。コートも手袋もしないで、真っ赤になったほほ。ひざより少し上の長いスカート丈は、校則を守っているのではなく、コートを着ずに寒さを防ぐためだ。
その姿のままの有輝子を見守り、すばるは立ち上がった。
「スターゲイザーとスターゲイザードは触れ合わない。だから、触れたら終わりにしよう」
もう一度すばるが差し出した手を、有輝子はじっと見つめていた。
恐れ迷いながら、それでも自分の手を前に伸ばしてきた。
すばるはその手に言葉を注ぎこむ。
「世界一の学者さんになって」
「うん……う……っ」
有輝子の手の甲に、いくつも涙が落ちていく。肌の上で弾けた涙は星明かりをとめどなく受けて、星に変身したようにキラキラ輝いていく。
すばると有輝子は見つめ合った。
他に言葉はなかった。
「ありがとう」も「さようなら」もいらない。これが最後になってしまう言葉ならいらない。
「すばる……」
有輝子の指先がすばるに触れるまで、もうあと数センチ。
「うん、ユキコちゃん」
すばるはただ待った。
「……すばるっ」
キンと冷えた指先が、すばるの右手に触れた。
音もなく、風も色もなく、屋上から有輝子が消えた。
友達の最後のぬくもりをどこまでも刻みこみたくて、すばるは左手で右手を包んで胸に押し当てた。
――ほんとうはね、こんな広い宇宙の中のちっぽけなわたしの星なんて、見つけてくれなくて良い。
でも、願っている。
――誰よりスゴい、学者さんになって。
全天を覆うどんな星にも負けない、夜空で一番の輝きになって。