StarGazereD  第1章 − 4回


「ああやって動かすと、宇宙の色んな場所に移動できるんだ。ホントに動くんじゃなくって、景色を借りてくるだけだけどね。さっきすばるは、小惑星が衝突してるポスターを触っただろ? だからこの部屋も揺れたんだよ。ボクが普通のキレイな宇宙の写真を触って、元に戻したけどね」
「それ、魔法?」
「魔法かなぁ。なんだろね。ココ地球じゃないし、想いが形になった場所だから」
 すばるはそういうものなんだなって、受けとめるだけだった。
 それから少年は、長机を教室の真ん中に寄せ始めた。
「明かりの次はテーブルだね。うりゃっ」
 四つくっつけて、大きなテーブルにしたいのだろう。
 すばるが手伝おうとしたら「お客さんなんだから座ってて」と断られてしまった。
「えと、他に手伝ってくれる人はいないの」
「いないよ。スターゲイザードは一つの星に一人きりって決まってる。一つの星に、想いは一つだからね」
「それ、あれなのよ。スターゲイザードさんって、あなたのお名前じゃないの?」
「うん、ボクに名前はないよ。ボクを『スターゲイザード』と呼ぶのって、桜を『桜』じゃなくて『花』とか呼ぶのと同じさ。そんなコトよりパーティーにはゴチソウだね!」
 少年は後ろのロッカーを開けた。天文部の備品から、ケーキの宇宙食や、粉を溶かして飲むジュースを取り出す。 パックのままで机に並べて両手をかざす。
「元に戻れー、ケーキとジュースになれー、えいっ」
 かけ声と同時に、宇宙食が赤紫色の星雲みたいな煙につつまれた。
 ビニールパックの宇宙食は、イチゴと生クリームの豪華なホールケーキに変身した。
 ジュースの粉のあった場所には何角形にもカットされたガラス瓶が現れ、中にはキラキラした光の粒がきらめくピンク色のジュースが入っている。
「よしよし……あっ、テーブルクロスもか」
「ねっ、ねえ、待って。お名前は」
「なにか言った、すばる? お、コレ使えそう」
 少年は次に古いハンカチを机の上に置いた。ギリシア神話の格好をした女の子の絵や、こぐま座ややまねこ座という、星座の動物がかわいらしい絵で描いてある。
「キレイになって、広がって!」
 ほこりっぽかったハンカチは色鮮やかに輝き、四つくっつけた机をおおうほど大きくなっていった。ケーキやジュース瓶がひとりでに宙に浮き、その下にハンカチがするするっと広がっていく。
 うす青色をしたハンカチに、こんぺいとうの形をした星がキラキラと光る。絵の女の子や動物が人形くらいの大きさになり、ハンカチから浮き上がり、机をスケートリンクにしてハンカチをくるくる回り始める。そのダンスのつま先が通った後に、星の形が光っては消えてはまた光っていく。
「うわ……きれーえ」
 すばるが机と同じ目の高さでダンスを見つめると、少年も満足げにニッコリ笑った。
「よかった。すばるが喜んでくれて。最後は部屋の飾り付けをしないとね」
「ああの、きれいだけど、ありがとだけど、でもあなたのお名前」
「ちょっと待ってね。よしよし、コレにしよう……キミたち出てきておくれ!」
 壁に貼られた流星の写真に、少年の指先が触れた。
 彼は写真の中の流星をつまむように、親指と人差し指をくっつける。それから「えい!」、かけ声と一緒に、釣りで魚を引き上げる仕草で、写真から大きく腕を振り上げた。
 すると、写真の中から流星が飛び出した。
 流星は空中で少しふらふら、右に左にふるえたけれど、すぐ水を得た魚のように地学室の中をひゅんひゅん飛び回る。流星は二つ三つと分裂していき、終わることのない流星群が部屋を包んでいく。
「どう、どう? コレきれいでしょ、最高でしょう!」
 少年はゆげでも出そうなくらいに、得意げに嬉しそうにすばるを向いた。
「うん……って、あーもう! そうじゃないの、聞いてって言ってるのに!」
 すばるはついに大声を出した。
 調子よく話していた少年の声も笑顔も、流星もテーブルの上の動物たちもぴたっと止まる。
「さっきからずっと聞いてるのよ、あなたのお名前!」
「え……え? だって、スターゲイザードって」
「だからね、スターゲイザードのナニさんなの?」
 少年は口を閉じて十秒後、胸いっぱいに詰まった息を、一気にぷはっと吐き出した。
「ボクは生まれてからずっと一人きりで……名前なんて、考えたコトもないや」
 ずっと明るくて無邪気でいた顔が、初めて曇ったようだった。