StarGazereD  第2章 − 1回


 廊下は真っ暗だった。
 すばるが電気を探そうとすると、少年が光る小瓶を差し出した。
 小瓶には六角形が組み合わされた金平糖に似た粒が、いくつも詰まっている。この粒ひとつひとつが光っていて、瓶全体にオーロラのようなゆらいだ光りをまとわせている。
「こっちの方がキレイだよ」
 少年は小瓶の口にはまったコルク栓を開けて、光る粒を一つ、空間へ放り上げた。
 たちまち豆電球くらいの灯りが広がった。
 二人は突き当たりの階段へと歩き始めた。少年は一つの灯りが遠ざかっていくと、また新たな粒を放るということを繰り返す。
 すばるは、少年の『まずはすばるが帰れる方法を探す』という望みが進みつつあるのを感じて、口を開いた。次はすばるの望みだ。
「えと、次はわたしの番ね。あなたの名前をつけたいから、あなたのことよく教えて」
「ボクの星の特徴は、二連星なんだよね。ボクの近くにはもう一つ似たような小惑星があって、お互いに相手の周りをぐるぐる回りあってるのさ。双子星とも言うんだよ」
 二人は階段を二周りして、二階に降りた。
 図書室は階段から降りて二つ目の教室だ。
「すごくほんとの学校そっくり。どうして宇宙に学校があるのかな」
「ココもボクと同じ、星の想いが形になったものだよ。学校の形してるのは、発見者がすばるだから、キミの知ってる場所の影響を受けてるんだ」
「へぇー……。こんな学校がもし地球から見えちゃったら、大騒ぎにならないのかな」
「大丈夫だよ、幽霊が普通は見えないのと一緒さ。人間には心の他に体もあるから、心や想いだけで作られてるこの場所は、絶対に見えないよ」
「……でもわたし、ここにいるけど」
「ウン、その辺がボクも不思議でならない」
「それにあなた、人間じゃないのに、人間のことすっごくわかってる」
「スターゲイザードは生まれつきアレコレ知ってるのさ。キミら人間が教わらなくたって息ができるのと一緒だよ。ボクなんて深呼吸の真似はできるけど、どうすりゃ寝ながら息できるかサッパリわかんない」
 少年は両腕を左右に大きく広げて、ひゅうと声を上げて息を吸ってみせた。
 二人は図書室についた。
 中は広く真っ暗で、少年は残っていた粒を全てばらまいた。
 電気が灯ったのと同じくらいの明るさになった。
 図書室は入って左にカウンターがあり、正面に観覧用のテーブルが並んでいる。テーブルの右奥から図書の棚が並んでいる。授業で一クラスが使えば満席になり、一教室に本棚が収まるくらいの蔵書しかない。普通の公立中学校らしい図書室だ。
「わたしが寝てたのは……あ、ここ」
 すばるは細っこい脚を小走りにして、奥のテーブルに手をついた。
 中央の椅子だけが後ろにひかれ、背もたれに学校指定のナイロンバッグがかかっている。
「わたし、カバンも置きっぱなしにしてたみたい」
「なくなってるものはないかな」
 カバンの中身をテーブルに開けた。教科書、ノート、ペンケースなど、すばるが見慣れたものが当たり前のように出て来るだけだった。
 少年は難しそうに体を左右にゆらすと、椅子を指した。
「目が覚めた時と同じように座ったら、戻れたりしないかな」
 すばるは深く考えず、椅子の背もたれに手をかけた。
 その手に、
「すばる」
 少年が自分の手を強く重ねてきた。
「キミに会えて、ホントに嬉しかったよ。キミがボクをこの世に生んでくれたんだから」
 少年の口は、優しいゆりかごのようににんまりしている。小粒な目は、すばるの全てを見つめてまんまるに開かれている。
 彼の瞳に映った自分を見て、すばるはその事実に気がついた。
 もしこの椅子に座って、本当に地球に帰れたら、彼は一人きりになる。
「っあ、あの!」
「さあさ早く座って!」
 すばるのためらいを見抜いたように、少年はすばるの両肩を強引につかんだ。
 小柄でもやっぱり男の子らしい、すばるには出せない強い力だった。
「きゃっ」
 椅子にしりもちをつく格好になって、すばるは思わず目を閉じた。
 同時に肩からふわっと力が抜ける。
 ――うそ、……ほんとにっ?