StarGazereD  第5章 − 4回


「ボクはすばるを最優先にしたい。ソレがボクの望みだ。でもすばるが帰ってしまうって思ったら、ボクは――」
 そう言った瞬間だった。
 コトリスは音を鳴らすほど大きく息を飲みこんだ。
 と思ったら伸ばしかけていた腕を戻し、両手で自分の口を塞いでいた。体を真横にして階段を見下ろして、すばるから目をそらした。
 すばるは、瞳と瞳のラインがちぎれたことがショックだった。
 ――「わたしが帰ってしまったら」、どう思ったんだろう。コトリス。
 寂しくて、悲しくて、仕方ないとわかっているけど、嫌だと言って欲しい。すばる自身がコトリスに想っていることをそのまま想い返して欲しい。
 こんな望みを持つこともすばるには生まれて初めてだった。
「……ねえ、コトリス。わたしが帰ってしまったら……」
「キミは多分、二度とココには来ない。スターゲイザーとスターゲイザードは見つめる者同士。決して隣あわない」
 求めていたのとは全く方向が違った答えがすばるを余計に驚かせた。
 すばるが「え」と唇を動かすと、彼はいつもの親切な解説をもっと早口にする。
「星見人の歌だって、そう歌ってるだろ」
「見つめ合うだけ……」
 星見人の歌を頭の中で繰り返したとたん、すばるの体は動いていた。
「やだ!」
 横を向いたままのコトリスの左肩に抱きついていた。
 理屈ではわかっていても、心が止められない。
「わたし戻りたくない。コトリスと一緒がいい!」
 抱きつかれたコトリスの体がわずかに揺れた。口を覆っていた手は降ろされたけれど、どこに向かうでもなくぼんやりと下に降ろされる。
 すばるの手や腕やほほに、コトリスの体があたたかい。彼が生き物じゃないとかそんなことはどうでもいい。ただコトリスがここにいて、やっともう一度触れられたということに安心している。でも。
「やめてくれよ、すばる」
 コトリスは前を向いたまま、すばるに左手を突きだした。
 ――ドンッ
 軽い衝撃をおなかの辺りに受けて、すばるは一、二歩後ずさった。
「キミに気をつかって色々するのも、疲れてきちゃったんだ」
 コトリスはポケットに手を突っこむ代わりに、ベルトへ両方の親指をひっかけた。肩をすくめて、わざと溜息をついた。
 爽やかな風の姿をしていた彼は今は、よどんだ濁りのようになっている。
「ああ、そうさ。ボクはスターゲイザード。スターゲイザーのキミを最優先するようになっちゃってる。どんなにうんざりしてても……ね」
 最後の一言で、すばるは今度こそ階段の下に落ちた気分になった。
 いいや、頭を打って幻をさまよった方がまだ良い。
「あっ、あの、コトリス、あの、ごめんなさ……」
「そういうのもやめてくれ。別にキミが悪いコトしたんじゃない。ただボクが疲れてうんざりでこりごりだってだけだ」
 コトリスはすばるに体を向けないまま、足を二階に続く階段へと伸ばす。
「帰る方法、さっさと探そう。キミは帰りたい、ボクも一人になりたい。お互いのためさ」
 そしてすばるを振り向きもせず、素早く階段を昇り始める。
 これが夢まぼろしではない、現実だった。

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