StarGazereD  第1章 − 6回


「誰かが星を見る。誰も知らない星を世界で初めて見つける。ああ、その人は、星を『発見』したんだ。星はこの時生まれて初めて誰かに『見られた』んだ。初めてハッキリと存在が形になる。想いが形になるんだ。――わかるかい? それが、すばるとボク。すばるがボクの星を見つけた瞬間に、ボクの星の想いは形になって、ボクはこの姿になった。ボクの星を世界で初めて見つめたのは、すばる、キミなんだよ」
 少年は、まるでぼんやりしてしまったすばるに右手を差し出した。
「キミは、スターゲイザー。『星を見る者』」
 彼はその手をひるがえし、彼自身の左胸に当てた。
「ボクは、スターゲイザード。『星を見る者に見られた者』」
 それから三日月の形に唇をにんまりさせて、
「すばるがボクを見つけてくれた。キミにずぅ……っと、会いたかった!」
 最後の最後は、流れ星のように弾ける笑顔だった。
 でもすばるは、一緒に笑えるような気持ちになれなかった。
「わたし、小惑星を発見なんてすごいことしてない」
「小惑星ってまだ見つけられてないのが何億個もあるでしょう。世界中のアマチュア天文家が毎日のように発見してるんだからさ、キミが発見したってありえるコトだよ」
「で、でも、見つけようとしたことなんてないし」
「たまたま見つけたのだって立派な発見だよ。キミが新しい星だとわかってなくてもね。ましてキミは天文部で、いつも星を見ているんだから」
 少年は机におきっぱなしのガラス瓶を手に取り、三日月型のグラスにジュースを注いだ。キラキラしたジュースが三日月を内側から輝かせる。少年は一つをすばるの前に置き、一つを自分の手に持つ。
「おさらいだよ。すばるがボクの星を発見して、想いが形になったボクが生まれた。すばるは『星を見る者』スターゲイザーで、ボクは『星を見る者に見られた者』スターゲイザード。小惑星帯にあるボクの星に、地球のすばるがやってきちゃった理由は謎だけど、ココは物理的な場所じゃないから、説明つかないコトもある。ここまでイイ?」
「うん……だいじょぶ」
「よしっ、じゃあカンパイしよう」
 少年が自分のグラスを高く掲げたので、すばるも一緒にならった。
「ボクらの出会いに、カンパーイ!」
 二人がジュースに口をつけたのと同時に、人形のダンサーたちがくるっとターンを決め、流れ星は花火になって七色に弾けた。ジュースはしゅわしゅわして甘くて、たまにピリッとした辛みが涼しいアクセントの、春の夕方の一番星みたいな味だった。
「おいしーい! こんなの初めてっ」
 すばるはほっぺたまでキラキラさせて、驚き、喜んだ。
 けれどやっぱり知りたいことがあるから、すぐにグラスを置いてしまう。
「わたし、あなたのお名前がないことが気になるのよ」
「どうしてもなら、スターゲイザードって呼んでくれればいいさ」
「それはちょっと……わたしが『中学生さん』って呼ばれるようなものだし」
「だったらボクはさ、すばるがどうやれば帰れるかなってコトが気になるよ? すばるに会えたのは嬉しいけど、キミは元の所に帰らなきゃ」
「そんなの今すぐ考えたってわかんないもん。でも名前なら今すぐつけられるのよ」
「名前があっても今すぐ役に立つわけじゃないだろ」
「今すぐ帰れないのに、戻る方法を今すぐ考え始めることないもん」
 いつしか二人は口論のようになっていた。少年はますます体をゆすり、すばるは指の先でグラスのふちをせわしなくなぞる。
「ボクはすばるが帰れる方法を考えたいんだ!」
「わたしはあなたの名前をつけたいの!」
「このわからずや!」
「ホントにわからないんだから!」
 最後は同時に叫んでいた。少年はイーッと全開に歯をむく。すばるも短めの眉をつり上げて、思わず口が三角形になっている。
 二人はお互いの顔を見合って、ハッと息を呑んだ。
 そして数秒後。
「ぷっ……あは、あははははっ」
 まるで仲良く、一緒に吹き出していた。
「すばるったら、また三角形! そんな顔されたらカワイくて笑っちゃうさっ」
「わたしが三角ならあなたの口は長四角よーっ」
 二人とも同じように笑いを交わして、やがてどちらともなく言った。
「一緒に考えればいいんじゃないかな。ボクの名前と」
「わたしが地球に戻れる方法を」
「よしっ、決まりだ。じゃあ改めて、ボクらの冒険にカンパイ!」
「カンパーイ!」
 一度目の乾杯から少し時間が経っていたけれど、ジュースは相変わらずしゅわしゅわして美味しかった。
「さて、まずはボクの番。キミが帰れる方法を探すよ。すばるはこの部屋でボクに会う前、どこでどうしてたの?」
「放課後、いねむりしてた……図書室で。目が覚めたらもう午後七時すぎてて、誰もいなくて、今日は天文部の活動があったか確かめたくって地学室まで来たの。天文部って空がご機嫌ナナメだと活動できないから、いつも放課後になったら部長さんに聞きに行くんだけど、今日はわたし寝ちゃってたから……」
「起きてから直接、地学室まで来たんだね。なるほど。図書室で目を覚ました時から、キミはこの星に来ちゃってたってコトだろうね」
 少年は椅子から軽やかに、手を使わず立ち上がった。
「図書室まで行ってみない? 何かわかるかも」
 彼の提案は、すばるにとっても名案だった。