StarGazereD  第1章 − 3回


 すばるは慌てて、口を手でおおった。またやってしまった。
 ぼーっとしていると、口が上向き三角形の形に開いてしまうのは、すばるのちょっとした無自覚なクセだった。
 ただすばる本人は、最近までこのクセに気づいてすらいなかった。天文部の部長に指摘され、大笑いされてしまってから、「ちょっとおもしろおかしいクセなのかな」と意識したのだ。
 もっとも部長は、三角形の口はうんと可愛いとほめてくれたけども。
「笑うこと、ないと思うのよ」
 すばるはちょっと赤くなって抗議した。
「ゴメン、ゴメン。カワイイよ、ホントさ。ボクがすばるを悪く言うはずがないんだ。だってキミはボクの――」
「――すたげーざぁ?」
「っそう!」
 少年はまた一人で盛り上がったが、すぐに咳払いして、改めて窓に目線をやった。
「外、ドコに見えるかい?」
「夜空。星。宇宙」
「当たり。ココは宇宙の中なんだよ。この校舎、宇宙に浮かんでるのさ。キミは何かのキッカケでもって、地球から宇宙空間にやって来てしまったんだ」
 少年は何食わぬ顔であっさりと告げた。
 そして数秒経ってから、口と目を三日月のように笑わせて、すばるをのぞきこむ。
 とうのすばるは唇を軽く結び、なんとなく少年に顔を向けている。
「……ビックリしないのかな、すばる」
「だって」
 まあ、すばるだって、「だって」としか返しようがない。宇宙空間にいると言われれば、なるほど一番納得がいく。風景だけを客観的に見れば大正解なのだ。
 少年は壁に張られた、太陽系の惑星が一列に並んだポスターを指さした。少し古いものだから、まだ冥王星も列に加わっている。
「ボクらは、ココにいるんだ」
 彼の指が示した先は、火星と木星の間だった。
「小惑星帯。岩みたいな星が集まってる地帯だ。ボクらがいる星もおんなじ、直径数キロの小さな小さな岩の塊の星だ。この小さな星にくっついてるこの建物はワケあって、キミの学校にそっくりの姿をしてるけど、ココはれっきとした宇宙なんだ」
 少年は自分の胸の真ん中に、守るように包むように両手を当てた。
「ボクは、星の想いが形になった者。星の心、魂、命、意識、精神……その全てなんだ。小惑星帯の中にある、ボクの小さなこの星、それがボクそのものだ」
 すばるは不思議だと感じたけれど、おかしな気分にはならなかった。
 花や木に心があるなら、星に想いがあったっていいはずだ。
 そういう様子を見て、少年は感心と興味が混ざった声を出した。
「やっぱり怖がらないね、すばるは。ボクはキミの他におしゃべりした人っていないけど、こうゆう時は信じてくれない人ばっかりらしいよ?」
「よくわかんないけど、スターゲイザードさんが怖いわけじゃないから」
「うん、すばるが平気ならボクも良かった!」
 少年は笑ったと思ったら、眉毛をまぶたにくっつくくらいうんと下げた。
「でもなんでこの星にキミが来ちゃったのかは、サッパリわからないんだよね。ココに人間がくるなんてありえないのに。キミとボクはスターゲイザーとスターゲイザードだから、ずっとつながってはいたんだけどね」
 また少し、すばるの知らない話だったけれど、尋ねるより前に少年は話を変えた。
「キミが地球に帰れる方法を探す前に、キミに会えたコトを喜びたい。歓迎会をしよう!」
 少年はふむふむと周りを見回す。
「ねえ、ココは暗い? ボクにはコレが普通だから、よくわからなくて」
「ちょと暗い、かな」
 室内は相変わらずプラネタリウムになっている。
「大丈夫、待ってて。……こぉーのへん、かなーあ」
 少年は教室の後ろに置いてある、プラネタリウム投影機に手をかけた。
 今、投影機は内側から光っているけれど、よく見ればコンセントが差されていなかった。
「太陽に近づけるよ。えいっ」
 彼がプラネタリウム投影機をくるんと回せば、室内がふわっと明るくなった。
 夕暮れに差しかかった時間のおだやかでやわらかい、紫色に濃いオレンジ色のカケラが溶けこんだ日差しが、室内をいっぱいに照らす。