StarGazereD  第6章 − 3回


 また別の日の観測だった。
 いつも通り有輝子は望遠鏡を空に向け、すばるはコートとマフラーと手袋の重装備で夜空を眺めていた。
 すばるは「星がキレイ」というだけで入部したらしく、特別な活動は何も行わない。でも有輝子にはペースを乱されないという点で大歓迎だ。
 一緒にいるには、星が好きというだけで十分だ。
「小惑星、見つけたらどうなるの」
 すばるの小さな声が屋上の夜に響く。
「発見者が名前をつけられるわ。私はそれを目指しているのよ」
「すごいっ、ユキコちゃんの名前が星になるの! さすがユキコちゃん!」
「あ……いいえ、まだなんの名前をつけたいかは考えていないけれど……」
 そんなことはまるで関係ないらしく、すばるは「すごいすごい」と繰り返してくれる。
 素直に喜んでくれるすばるを、有輝子はどきどきしながら見つめていた。火照った肌を見破られずに済むから、辺りが夜で本当によかった。
 でも、その時は突然やってきた。
 すばると知り合って一カ月がすぎた頃だった。有輝子は数日前に、すばるから、小惑星を撮った写真がほしいとねだられていた。有輝子はよく撮れたものを数枚、印刷して渡した。誰にも秘密だと念を押した。
 小惑星を新発見したいことはすばる以外には話していない。他人が知る必要なんてない情報だけれど、すばるだけは特別だった。
 有輝子はその日の放課後、図書室にやってきた。
 するとカウンターの左端、パソコンの前に、すばるが座っていた。
「あら、すばる。どうかしたの」
 声をかけたのと同時に、有輝子の目に見慣れた写真が飛びこんできた。すばるに渡した小惑星の写真だ。写真はパソコンのモニターに映し出されている。
「なに、これ……」
 何が起きているのか、すぐには意味がわからなかった。
 すばるは有輝子のつぶやきが聞こえなかったらしく、いつもの淡い微笑みを浮かべる。
「わたし、お手伝いしたいなって。小惑星好きな人のサイト見つけたから、ユキコちゃんの写真、投稿したの。あ、ユキコちゃんの名前で送ったのよ、第一発見者ってゆうのは大事って教えてもらったもん。そこのスキャナで取りこんでね――」
 言葉は最後まで、有輝子の耳には届いていなかった。
 ただ反射的に、座っているすばるの胸倉をつかんでいた。
「どうしてネットに流したりしたのよ!」
 すばるの無邪気な笑みが一瞬にして消えた。唇が三角形に開いた。ぼんやりしている時の証拠だ。
 本当に何も考えていないんだという姿勢が、ますます有輝子の神経を逆撫でする。
「秘密だったのに、すばる以外には! すばるだから見せたのに、話したのに!」
 図書室には数人しかいなかったが、皆がパソコンの方に注目した。でも有輝子には周りなど目に入らない。今ほど全てがどうでもいいと感じたことはない。
 やっとできた、友達。
 ――星がキレイと言ってくれただけで、仲間だと思っていたのに。
 あとはもう、叫ぶだけだった。
「裏切り者! ……すばるなんか、どっか消えちゃえばいいんだわ!」
 勢いあまって有輝子は目を閉じていた。
 その瞬間、手の中から服の感触がなくなった。
「……ぇ」
 目を開けた有輝子の前には誰もいなかった。
 パソコンの電源もいつの間にか消えて、モニターは真っ暗になっている。
 急いで左右を見渡しても誰もいない。カウンターの中には有輝子から距離を取って、驚く図書委員がいるだけだ。
 ほんの短い間に、すばるは図書室から出て行ってしまったのだろうか。
 よくわからない、でもそれ以外に考えられなくて、有輝子は一旦は学校を後にした。
 屋上に行くのも気が進まずに、天文部もお休みした。
 でもよく眠れなかった。翌日目覚めたのは午前五時半だった。黙って家にいたって落ち着かれなくて、もうさっさと登校してしまう。学校についたのは午前六時半、まだ運動部だって朝練を始めていない。
 昨日はさすがに冷静さを欠いていたと、一晩経って少し反省している。もちろんすばるのやらかしたことには思い出してもムカムカするが、いきなり怒鳴るというのも恥ずかしいことだ。