今、コトリスの両方の瞳には、すばるが映っている。ぽわっと口を三角形に開いたすばるを宿し、そんなすばるをからかいもせず、コトリスは微笑んでいる。
すばるはこの瞬間が幻の気がしてきて、両手でコトリスの胸の辺りの服を握った。
幻のような、ではない。
幻かもしれない。
コトリスにはここにいるけど、すばるにしか見えない。すばるがスターゲイザーだからだ。
だったらしゅわしゅわのジュースも、廊下に散らしてくれた星の光りも、それをすばるのために用意してくれた迷わない手も純粋な笑顔も、全て幻なのだろうか。
「わたしが、コトリスを見ていなかったら。わたしがスターゲイザーじゃなかったら。コトリスにとってわたしはどうでもいい人?」
夜桜のような夜空に化かされたように、うわ言のように、すばるは口走っていた。
「もしスターゲイザーじゃなくても、今みたいに。歌ってくれた?」
コトリスはきょとんとして目をしばたたく。
「わからないなぁ。ボクはキミ以外に知ってる人って、ナナちゃんしかいないしね。すばるはイイ子だから、スターゲイザーじゃなくたって聞かれたら答えたよ」
当たり前のものとして答えてくれたコトリスに、すばるは小さくうなずくしかできない。
こういう答えがほしかったんじゃないのは自分でもわかるけれど、じゃあ何が聞きたかったのかもわかっていない。
「じゃあナナちゃんには、答えてあげた?」
「意地悪する気はないけど、すばるほどにはできないと思う。だってナナちゃん、悪い子じゃないけどワガママじゃないか」
コトリスはぷくっと頬をふくらませた。
瞬間、コトリスのおどけた表情に、すばるの中の名前のつけられない不安やあせりが全て吸いこまれた。
「……ぷっ、あはっ、へんな顔!」
すばるはコトリスの胸をつかむ手を素直に離し、彼のほほを両側からつついた。
「ぷはっ、すばるだってさっき、また口が三角形になってたじゃないか」
「だったら今のコトリスはまんまるよ、まぁーんまる!」
二人は笑った。
二人で笑えることが、すばるには、なんだかすごく嬉しかった。
いつしか自然に、二人の体は離れていた。
「ナナちゃんはちっちゃい子だもん、ワガママはしょうがない。わたしは好きだと思ってもらえるの、嬉しいのよ」
「そりゃあ、すばるはね。すばるはさ。すばるは、いいよ。うん。……すばるがいいなら、ボクはいいんだ。ボクはキミのスターゲイザードなんだからさ」
コトリスが不満を出していることに、すばるはやっぱり少し安心する。彼にとってすばるは一番だとしても、心まで無理に染まっているんじゃないのだから。
「どれくらい時間、経ったかな」
「さっきから少し経ったし、また捜しに行こうか」
二人はそろって地学室を出た。
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