StarGazereD  第7章 − 2回


 何もかも思い出した。
 有輝子と出逢った時のことも、生まれつき知っていたはずの星見人の歌も。
 代わりに息の仕方も鼓動の打ち方も思い出せなくなったけれど。
 昨日、図書室で有輝子に「消えろ」と言われた。だから学校からいなくなり、宇宙に戻ったのだ。
 だってスターゲイザーを最優先にしたいのが、スターゲイザードだから。
 ――ああでも、自分がスターゲイザードだったことなんて、どうでもいい。
 コトリスの言った通り、スターゲイザーとスターゲイザードは隣り合わない。一つ所にそろって存在するというのはおかしいのだ。
 けれどもすばるは中学校にいた。
 でも有輝子と一緒にいた時の記憶しかない。
 何がおかしなことが起きている。
 すばるは走り出した。昼休みを楽しむ生徒の中を、誰も避けず壁も扉も気にせず走り回る。重力なんてまるで気にならず、床を蹴る感触が上履きの裏から伝わってこない。コトリスがとても軽く見えたのは、きっと今の自分と同じなんだろう。
 すばるはまず二年三組に入った。教卓に置かれている出席簿を開いた。
 有輝子は今日、学校に登校してきていなかった。
 次は二階の職員室へ向かった。
 先生達なら何か知っているかもしれない。
「失礼しまぁす」
 職員室へ入る時に一応声をかけたけれど、もうすばるの声は誰にも届いていない。
 二年生を担当する机の辺りから、先生達の話し声が聞こえてきた。
「先生のクラスの伊庭さん、めずらしいですね。お休みなんて」
 中年の女性教師に話しかけられ、スーツの男性教師が頭をかいた。彼は二年三組の担任教師だ。
「あー伊庭ですか。気になってたんですよ。放課後になるとイスに座ったままでですね、天文部の友達を待ってると言って聞かないんですよ。見張り続けたら、しまいには友達が来てもいないのに帰って行ったんですよ。天文部に伊庭以外の部員なんていないんですよ? 友達を天文部と呼んでるだけかもしれませんけどね」
 すると向かいの席に座っていた、若い男性教師が顔を上げた。
「僕、気になること聞きました。昨日の放課後、図書委員が、パソコンのところで一人で叫んでいた生徒がいたって報告に来たんです。二年生の伊庭さんだったって」
「あらー……困りましたねぇ。やっぱり伊庭さん、かなり具合悪いんじゃありませんか。勉強のしすぎかもしれませんよ、成績も断トツですし」
 スーツの男性教師はあごを指ですり合わせて考えこんでしまった。
 すばるは職員室を出た。
 もう十分、何が起きたかわかった。
 今まで誰もが、すばると一緒にいた時の有輝子を『一人』だと認識していた。
 有輝子の他にすばるを見た者は、誰もいなかったのだ。
 おまけに有輝子は今日、登校していない。
 すばるはさらに手掛かりを求めて図書室に向かった。誰にも姿を見られないままパソコンの前に立った。
 昨日、ここで『消えろ』と言われた。だからすばるは消えた。宇宙に戻った。
 辺りを探る内、すばるの手がカードの引き出しに触れる。
 と、頭の中に、知らない光景が広がった。
 白昼夢には有輝子の後ろ姿が浮かんだ。引き出しを片っぱしから探り「しらとり、しらとり……」とつぶやいている。しまいにはイライラして声を荒げている。
「ユキコちゃん……」
「わたし、いないのよ」と声に出しても、幻の有輝子には届くはずもなく、彼女は足早に図書室を後にした。すばるが後を追っていくと、彼女は二年生の教室に端から入り始めた。教卓に貼られた名簿を必死に読み上げているのだ。