StarGazereD  第3章 − 3回


 するとナナが、自分に話しかけられたと思ったらしく、口を開いた。
「あら、すばるは小惑星を探してるのね! ナナも知ってるわ、小惑星は肉眼では見えないから、遠くまで写した写真で探すんだわ。同じ場所の写真を時間をずらして何枚も撮って、見比べて、時間の経過と共に動いている星を探すのよね。それが小惑星なんだもの。もちろん小惑星以外の星も、すでに発見されている小惑星も写っているでしょうから、そういうのは除外よ。動く小惑星の位置を調べて、今まで誰も発見してないものだとわかれば、本当に自分が新発見したことになるわ」
 ナナはあっというまにそらんじて、すばるは彼女の見た目と正反対の知識の深さに、素直に感動していた。幼いのは外見だけかもしれないなら、ますます人間ではないスターゲイザードらしい。後ろではコトリスも、頭の上で音を立てずに拍手喝采している。
「すばるが写した写真なら、ナナも見たい。見せてねえすばる、見せて」
 ナナはつないだ手をぶるんぶるん振り回し、すばるの手は変な方向にねじれかける。
「いたっ、ああのね、だから図書室行きたいの。写真はわたしじゃなくて、ユキ……じゃなくて、えと、とにかくわたし持ってない。でも図書室のパソコン使わせてもらって、インターネットに投稿したことがあるの」
「わかったわ、早く行きましょう」
 ナナはとたんに走り出し、階段を駆け降り始めた。
 すばるはますますナナと距離が開いて、手を足先まで引っ張られて本気で転びかけた。
 場所を説明してもいないのに、ナナは迷わず図書室にたどりいた。
 カウンターには三台のパソコンが乗っている。私的利用は禁止だが、調べ物なら程度なら許可されている。もっともケータイを持っている大多数の生徒には必要ないが、ケータイを持たない少数派のすばるは、たまに使うことがあった。
「ねえ早く、すばるの写真見たい――あ!」
 ナナは後ろの壁沿いに作られた、小さな引き出しの列に気がついた。
 図書貸し出しカードの収納場所だ。
 カードは一つの引き出しに一クラス分が入れられ、本を借りようと借りまいと入学時に全員分のカードが作られる。
「すばるの借りた本を知りたい! ナナはこっちを探してるわ!」
「わたし本借りたことないけど……」
 すばるの、気恥かしくて小さくなった返事は、興奮したナナの耳には入っていなかった。ナナは宝探しに目を輝かせ、二年生クラスの引き出しをかたっぱしから開けている。中学生にちょうどいい引き出しは、幼いナナには顔と同じくらいの高さだった。 
 その隙にコトリスは抜き足差し足で、パソコンをいじるすばるの後ろに回った。
「どうしてインターネットに投稿したの?」
「わたし、ユキコちゃんの写真に新発見の小惑星が写ってるか調べるの、お手伝いしたかったの。小惑星見つけるの好きな人が集まるサイト見つけたのよ、『コスモゲイザー』ってサイト。写真の投稿できるページでね、これ新発見ですかって、聞いてみたの」
 すばるもこっそり答えながら、デスクトップパソコンの起動を待つ。型落ちした古いパソコンは音がうるさいし動きも遅いけれど、今はコトリスとの会話をナナから隠してくれる、頼もしいノイズだ。
「ユキコちゃん、すごくがんばって小惑星探してた。コトリスの星もナナちゃんの星も本当に写ってたら、ユキコちゃん新発見なの。だから写真確かめたい。それで戻ったら、ユキコちゃんに新発見って伝えなきゃ」
「ボクのスターゲイザーはすばるだけだよ?」
「写真撮ったのはユキコちゃん」
 いつになく素早く、すばるは答えた。
 コトリスが「ふふっ」と、羽のような笑いを宙に広げた。
「仲イイんだね、ユキコちゃんと」
「うん。わたし、ユキコちゃんに誘われて天文部入ったのよ。ユキコちゃん天文学者になりたくって、頭良くてすごいんだから。お手伝いしたい」
「そっか」
 コトリスは両手ですばるの肩を包んだ。
「やさしいね、すばるは。ボク、人付き合いってさっぱり知らないけど、人のために何かできる人がやさしいって言われるコトは知ってるよ」
「コトリスだってわたしに色々してくれたでしょ」
「キミはボクのスターゲイザー。キミのためっていうのは、ボクには当たり前さ」
 瞬間、すばるの胸に冷たい風が吹いた気がした。
 ――今までのこと全部、わたしが、スターゲイザーだったか……ら?
 どうしてそんなことが気になったのか、すばるにはわからなかった。
 何分もかかって、やっとパソコンの起動が終わった。辺りが急に静かになり、すばるもコトリスも口をつぐむ。ナナに会話を聞かれたらまた大騒ぎになる。
 二人は図書貸し出しカードの引き出しの列に目を向けた。
 そこには誰もいなかった。