やがて幻の有輝子は重い足取りで二年三組に入り、教卓の前にへたりこんでしまった。
そこで姿が消え失せた。
残り香のように、有輝子の声がすばるの耳に届いた。
「会いたい」と「すばる」。
湿った涙声で幼い子供みたいで、声は普段よりうんと高い。
「あっ……」
そしてすばるは息を呑み、丸い目をうんと見開き、小さな両手で口を覆った。
甲高くなった有輝子の声とそっくりの声を、すばるはついさっきまで聞いていた。
有輝子の声は『あの子』と全く同じだ。
賢くて気位の高い喋り方まで、今にして思えば瓜二つだった。『あの子』も有輝子と全く同じくらい、星について詳しかった。
どうして気づかなかったんだろうというくらい、そっくり同じ声。
すばるはやっと、『あの子』が誰だったのかを知った。
たたずんだすばるの前から横から、生徒達がやって来ては体を取りぬけていく。白鳥すばるなんて子は、本当は地球のどこにも存在しないからだ。
でもスターゲイザーの有輝子にだけは、すばるは同級生として存在していた。
有輝子は消えてしまったすばるを追い、会いたいと願ったから、再会した。
きっとむき出しの心だけで、星の世界にやって来てしまった。
自分の名前も忘れ、元の姿ともかけ離れ、幼い少女として。
有輝子はすばるが名づけた、ナナという少女になった。
ナナは、有輝子の心だった。
「ユキコちゃん、どうしよう、ごめんね、どうしよう、どうしよう……!」
すばるは胸が痛くてたまらなかった。
有輝子は今、どうなってしまっているんだろう。宛てのないどこでもない所を、有輝子でもナナでもない者としてさまよったりしていないのだろうか。
これ以上のことはすばるにはわからない。
もし地球上で有輝子が行方不明になっていても、誰にも見えない体では何も伝えられない。
――お願い、力を貸して。お願い……っ
たった一つの手掛かりを頼りに、すばるは教室を抜け階段を駆け上った。
四階のさらに上、屋上に飛びこんだ。
真昼の屋上には誰もいない。チャイムが鳴り、昼休みが終わり、生徒達が校庭から引き揚げていく。時間だけは公平にすぎて、有輝子はどんどん遠ざかっていく。
すばるは空を見上げた。星は一つも見えない。
でも見えないからって、存在しないわけじゃない。
「会いたい」
青い大気の遥か上空、地球の重力圏も飛び越えたさらに先へ先へ、願った。
怒らせたとしても、嫌われたとしても、手を取り合えるならあの人しかいない。
「会いたい、コトリス、会いたい。お願い力を貸して、コトリス……!」
もしもスターゲイザーの願いがスターゲイザードに届くのなら。
もしもこの瞬間、宇宙の彼方からコトリスもすばるを見つめているのなら。
どれだけ間を隔てるものがあっても、スターゲイザーとスターゲイザードはつながれる。
「スターゲイザー。ほしみるひとみ。みつめるひとみ。ひとみるひとみ。ひとみとひとみ」
すばるは幾億幾兆もの星の中からたった一つ、見つめ合った星に向けて手を伸ばした。
「――スターゲイザード!」